日本の夏は湿気が多くて、着物を着るのをためらってしまうことはありませんか?そんな暑い季節の強い味方になってくれるのが、通気性抜群の「麻着物」です。風が通り抜ける涼しさは、一度体験すると手放せなくなるほど快適なんですよ。
「麻着物」は涼しいだけでなく、自宅で洗えるという大きなメリットもあります。汗をかいてもすぐにケアできるので、夏のお出かけがもっと気軽で楽しいものになるはずです。この記事では、初心者さんが迷いやすい種類の違いや、失敗しない選び方についてやさしく解説していきますね。
夏の定番「麻着物」とは?
麻着物とは、その名の通り麻(あさ)の繊維で織られた着物のことです。木綿や絹とはまったく違う、シャリッとした独特の手触りが特徴的ですね。古くから日本の蒸し暑い夏を快適に過ごすための知恵として、多くの人々に愛され続けてきました。
1. 植物の繊維から作られる自然素材の着物
麻着物の原料は、苧麻(ちょま)やラミーといった植物の茎から採れる繊維です。植物由来ならではの強さと、少しひんやりとした触り心地が持ち味と言えます。化学繊維にはない自然な風合いは、見ているだけでも清涼感を感じさせてくれますね。
この素材は吸水性と発散性が非常に高く、汗をかいてもすぐに乾くという性質を持っています。まるで着物が呼吸をしているかのように、熱を外に逃がしてくれるのです。肌にまとわりつかないので、猛暑日でも比較的さわやかに過ごせますよ。
2. 一般的に着用する時期は7月と8月
着物のルールでは、麻着物はもっとも暑い「盛夏(7月・8月)」に着るのが基本とされています。裏地のついていない「薄物(うすもの)」と呼ばれる種類の着物ですね。透け感があるので、見た目にも涼しさを届けることができます。
しかし最近は温暖化の影響で、6月や9月でも汗ばむような暑い日が増えてきました。そのため、普段着として楽しむ場合は、気温に合わせて6月後半から9月前半くらいまで着ても問題ありません。無理をせず、自分の体感温度を大切にして着物を楽しんでみてください。
麻着物が夏に愛される理由
なぜ多くの着物好きさんが、夏になるとこぞって麻を選ぶのでしょうか?それには、単に「涼しい」というだけではない、実用的な理由がいくつかあるんです。とくに湿度の高い日本において、麻は最強の衣類と言えるかもしれません。
1. 風を通しやすく汗をかいても肌に張り付かない
麻着物の一番の魅力は、なんといってもその「風通しの良さ」にあります。繊維に張りがあるため、体と生地の間にふんわりとした空間ができるのです。そこを風がスーッと通り抜けていく感覚は、麻着物ならではの快感ですよ。
また、汗をかいたときに生地が肌にペタリと張り付く不快感が少ないのも嬉しいポイントです。絹の着物だと湿気で重たく感じることがありますが、麻ならサラッとしたまま過ごせます。長時間のお出かけでも、ストレスを感じにくいのは大きなメリットですね。
2. 自宅で水洗いができる手軽さ
夏の着物ライフで一番気になるのが「汗のケア」ではないでしょうか?正絹(しょうけん)の着物は毎回クリーニングに出す必要がありますが、麻着物は自宅でジャブジャブ洗えます。この手軽さこそが、夏に選ばれる最大の理由かもしれません。
着用後にすぐ洗えるので、汗ジミやニオイの心配をしなくて済みます。洋服感覚で清潔さを保てるのは、精神的にもすごく楽ですよね。お手入れのハードルが下がると、着物を着る回数も自然と増えていくはずです。
絹(薄物)と麻着物の違いを簡単に比べてみましょう。
| 項目 | 絹の着物(絽・紗など) | 麻着物(上布・縮) |
|---|---|---|
| 肌触り | しっとり・滑らか | シャリ感・張りがある |
| 洗濯 | 基本的に専門店へ | 自宅で手洗い可能 |
| 着用シーン | お茶会・フォーマルも可 | 基本はカジュアル・普段着 |
| シワ | シワになりにくい | シワになりやすい |
「上布」と「縮」の違いとは?
麻着物を探していると、「上布(じょうふ)」や「縮(ちぢみ)」という言葉に出会いませんか?これらは同じ麻着物でも、生地の織り方や質感が大きく異なります。違いを知っておくと、自分の好みに合った一枚を見つけやすくなりますよ。
1. 細い糸で平らに織られた最高級品「上布」
上布は、非常に細い麻糸を使って平らに織り上げられた高級な麻織物です。表面がフラットで滑らか、そしてトンボの羽のように透き通っているのが特徴ですね。古くは幕府への献上品とされていたほど、格式と歴史のある織物なんです。
袖を通すと、驚くほど軽くてひんやりとした感触に包まれます。凛とした雰囲気があるので、大人の上品な夏姿を演出したいときにぴったりでしょう。高価なものが多いですが、一生ものとして大切に着続けたい魅力があります。
2. 糸に強い撚りをかけてシボを出した「縮」
一方で縮は、糸に強い撚り(より)をかけて織り上げた後、湯もみなどで縮ませて作ります。こうすることで生地の表面に「シボ」と呼ばれる凹凸が生まれるのが特徴です。このデコボコのおかげで、肌に触れる面積が少なくなります。
シボがあることで、汗をかいても肌に張り付きにくく、さらさらとした着心地が続きます。上布に比べると少しふっくらとした柔らかさがあり、カジュアルな印象が強くなりますね。普段着として気兼ねなく楽しみたい方におすすめの種類です。
ふんわり涼しい「小千谷縮」の特徴
夏着物の初心者さんにまずおすすめしたいのが、新潟県で生産されている「小千谷縮(おぢやちぢみ)」です。麻着物の中でも特に人気が高く、色柄のバリエーションも豊富なんですよ。なぜこれほど愛されているのか、その秘密を見ていきましょう。
1. 新潟県で生まれる独特の「シボ」の魅力
小千谷縮の最大の特徴は、先ほど説明した「シボ」による爽やかな肌触りです。雪国・新潟の湿度の高い環境で作られることで、麻が乾燥して切れるのを防ぎながら独特の風合いが生まれます。このシボのおかげで、風が吹くたびに涼しさを感じられるんです。
柔らかいけれど適度な張りがあるので、着付けがしやすいのも嬉しいポイントですね。初心者さんでも襟元やおはしょりが決まりやすく、着崩れもしにくいです。初めての麻着物として選ぶなら、まずは小千谷縮を試してみてはいかがでしょうか。
2. 浴衣代わりにも着られるカジュアルな雰囲気
小千谷縮は、長襦袢を着てきちんとした着物風に着るのはもちろん、浴衣としても楽しめます。麻の半幅帯を合わせて素足に下駄を履けば、大人の夏祭りスタイルが完成しますよ。一枚で二通りの楽しみ方ができるのはお得な気分になりますよね。
デザインも伝統的な縞模様から、モダンなチェック柄や無地まで幅広く揃っています。洋服感覚でコーディネートを楽しめるので、若い世代の方にも人気が広がっています。夏のワードローブに一枚あると、お出かけの選択肢がぐっと広がりますよ。
憧れの最高級品「越後上布」と「宮古上布」
着物好きなら一度は袖を通してみたいのが、「越後上布(えちごじょうふ)」と「宮古上布(みやこじょうふ)」です。これらは国の重要無形文化財にも指定されるような、まさに麻着物の最高峰と言えます。それぞれの産地による個性の違いを知るのも面白いですよ。
1. 雪国が生んだ透明感のある「越後上布」
越後上布は、新潟県の南魚沼地方で作られている歴史ある織物です。雪の上で布をさらす「雪晒し(ゆきざらし)」という工程を経ることで、漂白されたような透明感が生まれます。その儚げで美しい透け感は、見る人の目も涼やかに楽しませてくれます。
すべて手作業で作られる重要無形文化財指定のものは、数百万円することもあります。しかし、その手間暇かけられた布は、何十年着てもへたらない強さを持っています。親から子へと受け継ぐことができる、まさに宝物のような着物ですね。
2. 南国の光沢と滑らかさが特徴の「宮古上布」
南の島、沖縄県の宮古島で作られているのが宮古上布です。こちらは藍染めの深い色合いと、蝋(ろう)を引いたような艶やかな光沢が特徴的ですね。越後上布とは対照的に、南国らしい力強さと艶っぽさを感じさせる織物です。
非常に細い糸で織られているため、軽くて薄く、まるで着ていないかのような着心地だと言われます。濃い色味が多いので、夏の強い日差しの下でも透けすぎず、シックな装いになりますよ。年を重ねるごとに体に馴染んでいく感覚は、宮古上布ならではの喜びです。
二大上布の特徴を比較してみましょう。
| 項目 | 越後上布 | 宮古上布 |
|---|---|---|
| 産地 | 新潟県(雪国) | 沖縄県(南国) |
| 色合い | 生成り、絣模様が淡く映える | 濃い藍色、艶のある光沢 |
| 風合い | さらりと軽く、透明感がある | 滑らかで、ひんやり冷たい |
| 仕上げ | 雪晒しによる漂白 | 砧打ちによる光沢出し |
他にもある魅力的な麻着物の種類
有名な上布や縮以外にも、日本各地には魅力的な麻着物がたくさんあります。それぞれ気候や風土に合わせた工夫が凝らされていて、知れば知るほど奥が深いんですよ。ここでは、比較的手に入りやすく実用的なものを2つ紹介します。
1. 丈夫で日常着として親しまれた「能登上布」
石川県・能登地方で作られている「能登上布」は、非常に丈夫で耐久性に優れています。かつては農作業着としても使われていたほどで、毎日のように着てもへこたれません。シャキッとした固めの風合いがあり、着姿が凛として見えるのも魅力です。
絣(かすり)模様が細かく、シンプルで落ち着いたデザインが多いので、男性の着物としても人気があります。昭和の時代から愛用者が多く、リサイクルショップで良品が見つかることもありますよ。普段着としてガシガシ着倒したい方にはぴったりの一枚です。
2. 手頃な価格で色柄も豊富な「近江ちぢみ」
滋賀県で作られている「近江ちぢみ」は、コストパフォーマンスの良さが抜群です。伝統的な技法を守りつつも、機械織りなどを上手く取り入れているため、比較的手頃な価格で手に入ります。最初の一枚として購入するのに、とても現実的な選択肢ですね。
最近では、パステルカラーやバイカラーなど、現代的な配色のものが多く作られています。洋服のブランドとコラボレーションすることもあり、ファッション性が高いのが特徴です。「着物は敷居が高い」と感じている方でも、近江ちぢみならTシャツ感覚で楽しめるかもしれません。
麻着物に合わせる帯と小物の選び方
麻着物を涼しく着こなすためには、合わせる帯や小物選びも重要です。着物が涼しくても、帯周りが暑苦しいと台無しになってしまいますよね。素材や色を工夫して、見た目も体感もクールダウンしましょう。
1. 帯も「麻素材」や「博多織」で涼やかに
麻着物には、やはり同じ「麻素材」の帯がもっとも相性が良いです。麻の八寸名古屋帯や半幅帯なら、背中の蒸れを大幅に軽減できますよ。素材感を合わせることで、コーディネート全体に統一感が生まれ、ナチュラルで涼しげな印象になります。
また、絹の「博多織(はかたおり)」の帯もおすすめです。特に「紗献上(しゃけんじょう)」と呼ばれる透け感のある博多帯は、キリッとした締め心地で緩みにくいのが特徴です。麻のカジュアルさを少し引き締めて、よそ行き感をプラスしたいときに便利ですね。
2. 長襦袢は麻や爽竹を選んで快適に
着心地を左右する一番の鍵は、実は肌に直接触れる長襦袢(ながじゅばん)にあります。ここで正絹やポリエステルを選んでしまうと、熱がこもって暑くなってしまいます。おすすめは、やはり吸水性の良い「本麻」の長襦袢ですね。
最近では、竹の繊維を使った「爽竹(そうたけ)」という素材の長襦袢も人気です。麻よりも少し柔らかく、肌が敏感な方でもチクチクしにくいという特徴があります。これら洗える素材の長襦袢を選べば、着物だけでなく下着類もすべて洗濯機で洗えるので非常に楽ですよ。
麻着物に合わせたい小物は以下の通りです。
- 麻の帯(八寸・半幅)
- 紗の博多帯
- 本麻の長襦袢
- 爽竹の長襦袢
- ヘチマの帯板・帯枕(通気性抜群!)
- レースの帯締め
自宅で洗える?麻着物のお手入れ方法
「麻は洗える」と言っても、実際にどうやって洗えばいいのか不安になりますよね。実は、特別な道具は必要なく、お風呂場や洗面器で簡単にケアできるんです。大切な着物を長く着るための、正しい洗い方のステップを見ていきましょう。
1. やさしく手洗いして形を整える手順
基本は、たっぷりの水で「押し洗い」をするのが一番生地を傷めません。お洒落着用の中性洗剤を使い、畳んだ着物を水の中で優しく押すようにして汗を抜きます。ゴシゴシ擦ったり、洗濯機で激しく回したりするのは型崩れの原因になるので避けましょう。
すすぎが終わったら、脱水はほんの少しだけで大丈夫です。洗濯機の脱水機能を使う場合は、ネットに入れて1分以内、もしくは30秒程度で止めるのがコツです。水が滴るくらい濡れているほうが、水の重みでシワが伸びて綺麗に乾くんですよ。
麻着物を洗う際の手順をまとめました。
- 着物を袖だたみにして洗濯ネットに入れる
- 洗面器に水を張り、中性洗剤を溶かす
- ネットごと水に浸し、優しく押し洗いする(2〜3分)
- 水を替えて、泡が出なくなるまですすぐ
- 洗濯機で30秒〜1分ほど軽く脱水する(やりすぎ厳禁!)
2. シワを活かすための干し方のコツ
脱水が終わったら、すぐに着物ハンガーにかけて陰干しをします。このとき、手のひらでパンパンと挟むようにして大きなシワを伸ばしておくのがポイントです。ここで形を整えておけば、乾いた後にアイロンをかける必要がほとんどありません。
麻着物は完全にシワをなくすのではなく、ある程度の洗いざらし感を残すのが粋(いき)とされています。細かいシワも「味」として楽しめるのが麻の良いところですね。乾くのも非常に早いので、夜に洗えば翌朝にはまた着ることができますよ。
初めての麻着物を探すときのポイント
新品の麻着物、特に上布などは非常に高価で、なかなか手が出しにくいですよね。でも、工夫次第で予算を抑えつつ、質の良い麻着物に出会うことは可能です。失敗しないための探し方のヒントをお伝えします。
1. まずはリサイクル着物で手軽に試してみる
初めての一枚なら、リサイクル着物店や骨董市を探してみるのが断然おすすめです。新品では数十万円するような上布が、リサイクルなら数千円から数万円で見つかることも珍しくありません。昔の麻は質が良いものが多く、掘り出し物に出会えるチャンスです。
リサイクル品はすでに何度も洗われて生地が柔らかくなっていることが多いです。新品特有の硬さが取れているので、買ってすぐに体に馴染む着心地を楽しめますよ。サイズさえ合えば、リサイクルは最強の選択肢と言えるでしょう。
2. 自分の肌に合う「手触り」を確かめる
麻素材は人によって「チクチクして痛い」と感じることがあります。特に敏感肌の方は、ネット通販だけで決めるのではなく、できるだけ実物を触って確認することをおすすめします。腕の内側など、皮膚の柔らかい部分に当ててみると分かりやすいですよ。
もし手持ちの麻着物がチクチクする場合、何度か水洗いをして着続けることで繊維が折れて柔らかくなっていきます。それでも気になる時は、下に着る長襦袢の袖を少し長めにするなどの工夫で解決できます。自分にとって心地よい肌触りのものを見つけてくださいね。
暑い夏こそ麻着物で涼しく過ごそう
麻着物の魅力は、なんといってもその「解放感」にあります。袖口から風が入り、裾へと抜けていく心地よさは、洋服ではなかなか味わえない体験です。自然素材の力を借りて、蒸し暑い日本の夏を味方につけてしまいましょう。
種類も「上布」のような工芸品から、「小千谷縮」のようなカジュアルなものまで多種多様です。まずはリサイクルなどで手頃な一枚を手に入れて、その涼しさを実感してみてください。きっと、夏のお出かけが待ち遠しくなるはずですよ。
