結婚式での留袖や、お子様の七五三など、着物を着る日は特別な緊張感がありますね。着付けの最後に「あれ、この扇子はどうするんだっけ?」と手元で迷ってしまうことはありませんか。
普段使いの扇子とは違い、儀式用の扇子は「末広(すえひろ)」と呼ばれ、独自のルールが存在します。帯の右だっけ、左だっけ?金と銀、どっちを見せるのが正解?そんな素朴な疑問を、今すぐ解決していきましょう。
正しい位置と扱い方を知っているだけで、写真に写った時の立ち姿が驚くほど洗練されます。お祝いの席で自信を持って振る舞えるよう、具体的なポイントをお伝えしますね。
留袖や七五三で使う扇子「末広」とは?
着物姿で胸元にスッと差されている扇子は、単なる飾りではありません。これは「末広(すえひろ)」と呼ばれる儀式用の特別な道具です。
1. 普通の扇子と儀式用「末広」の違い
普段私たちが夏に使う扇子と、留袖や七五三で使う末広は、明確に役割が異なります。最大の違いは「あおぐための道具ではない」という点です。
- 用途
- 骨の色
- 地紙の色
夏の扇子は風を起こして涼むための実用品ですが、末広は儀式的な意味を持つ装飾品です。骨(持ち手の部分)は黒塗りの漆や骨色のままであることが多く、地紙(紙の部分)は金や銀で作られているのが特徴です。
2. 末広が持つ「繁栄」の意味と役割
なぜ「末広」という名前がついているのか、不思議に思ったことはありませんか。これは扇子の形状に由来しています。
扇子を開いた時、要(かなめ)から先に向かって次第に広がっていく形をしていますね。この形が「末広がりに栄える」という縁起の良さを表しており、お祝いの席には欠かせないアイテムとなっているのです。
留袖を着る時の扇子(末広)の正しい差し場所
ここが一番の悩みどころですよね。着付けが終わった後、扇子をどこに差し込むかで印象が大きく変わります。
1. 帯の左側に差すのが基本の位置
結論から言いますと、扇子は必ず「帯の左側」に差します。自分から見て左側の帯の間です。
これは昔、武士が刀を左の腰に差していた名残だと言われています。利き手である右手ですぐに取り出せる位置であり、相手に対して敵意がないことを示す礼儀の意味も含まれているのです。
2. 帯本体と帯揚げの間のどの位置に入れるか
「帯の左側」といっても、帯周りには帯揚げや帯締めなど、いろいろな紐があって混乱しますよね。正確には以下の場所に差し込みます。
- 帯揚げの内側
- 帯板と帯の間
帯揚げの中に完全に包んでしまうのではなく、帯本体(帯板)と帯揚げの間にスッと滑り込ませるイメージです。こうすると帯揚げがクッションになり、扇子が落ちにくく安定します。
3. 根元まで差さず天(上部)を少し見せる理由
扇子を差す時、見えなくなるまで深く押し込んでいませんか。実は、扇子の上部(天と言います)を2〜3センチほど見せるのが美しいとされています。
完全に隠してしまうと、せっかくの金銀の華やかさが見えなくなってしまいますし、取り出す時にも手間取ります。「ここに祝いの扇子がありますよ」と控えめに主張するように、少しだけ頭を出してあげましょう。
帯に差す時の扇子の向きと角度
場所が決まったら、次は「向き」です。適当に差してしまうと、動いているうちに落ちてしまったり、だらしない印象になったりします。
1. 扇子の要(かなめ)は左右どちらに向けるか
扇子の根元にある留め具の部分を「要(かなめ)」と言います。帯に差す時は、この要を下向きにして差し込みます。
この時、扇子の背(閉じた時の平らな面)が自分の方を向くようにしましょう。要が上を向いていたり、横を向いていたりすると、安定感がなくなり、見た目にも不安定な印象を与えてしまいます。
2. 自分から見て親骨の金と銀はどちら側か
末広には表と裏があり、一般的に金と銀になっています。帯に差す時は、どちらの面を外側に向ければ良いのでしょうか。
基本的には、閉じた状態なので色はあまり見えませんが、一般的には「金色の面」が外側(人に見られる側)に来るように差すことが多いです。ただ、地域や流派によっても異なりますので、そこまで神経質にならなくても大丈夫ですよ。
3. 帯に対して平行か斜めか正しい角度
鏡を見た時、扇子が帯に対して垂直に立っていると、まるで侍の刀のようになってしまいます。女性らしい優雅さを出すためには、角度が重要です。
- 扇子の頭(上部)
- 扇子の要(下部)
扇子の頭が体の中心に向かうように、少し斜めに傾けて差します。要は脇の方へ、頭は中心の方へ向く「ハの字」の左側だけのような角度をつけると、とても上品に見えますよ。
立っている時や歩く時の扇子の持ち方
集合写真の撮影や、会場への移動中など、扇子を帯から抜いて手に持つ場面も多いものです。そんな時の美しい所作をご紹介します。
1. 手に持つ時の右手の添え方と高さ
扇子を持つときは、基本的に右手で要(かなめ)の部分を軽く持ちます。ギュッと握りしめるのではなく、指先を揃えて優しく添えるのがポイントです。
- 親指
- 残りの4本の指
親指を要の内側に、残りの4本の指を外側に添えると綺麗に見えます。高さは帯の位置くらいに保ち、左手は軽く扇子の先に添えると、より丁寧な印象になります。
2. 写真撮影で綺麗に見える持ち方のコツ
記念撮影の時、扇子をどう持てば良いか迷いますよね。ただぶら下げるのではなく、少し意識するだけで写真映えが変わります。
体の前で両手で持つ場合は、お腹の前あたりで扇子を横にし、左手を下に添えます。この時、肘を軽く張ると、着物の袂(たもと)が綺麗に広がり、スタイル良く見えますよ。
3. 歩行中に腕を振る時の扇子の扱い
歩く時に扇子を持ったまま腕を大きく振ると、品がなく見えてしまいます。着物の時は、そもそも腕をあまり振りません。
扇子を持った右手は太ももの横あたりに自然に下ろし、揺らさないように静かに歩きます。扇子がブラブラしないように、人差し指をスッと伸ばして扇子の骨に沿わせると、安定して美しく見えます。
座って挨拶をする時の扇子の置き方
結婚式で親族紹介をする際や、お仲人さんへの挨拶など、座礼をする場面でも扇子は重要な役割を果たします。
1. 自分の膝前のどの位置に置くか
正座をして挨拶をする時、扇子は自分の膝の前に置きます。これを「扇子を要(かなめ)にする」と言い、相手との間に結界を作るという意味があります。
膝から扇子1本分くらい(約20センチ)離した位置に置くのが目安です。あまり遠くに置きすぎると、挨拶をする時に手が届かなくなってしまうので注意してくださいね。
2. 扇子の要(かなめ)を向ける方向
置く時の向きにも決まりがあります。扇子の要が自分の左側、扇子の先(開く方)が右側に来るように置きます。
- 要の位置:左側
- 扇子のライン:膝と平行
これは、右利きが多いため、すぐに右手で取り上げられる向きとは逆(左に要)に置くことで、「すぐに武器(扇子)を取りません」という謙虚な姿勢を表しているとも言われています。
3. 挨拶が終わった後に再び帯へ戻すタイミング
挨拶が終わったら、いつ帯に戻せば良いのでしょうか。基本的には、一通りの挨拶が済み、立ち上がる直前や、一息ついたタイミングで戻します。
慌てて戻す必要はありません。会話が続いている間は、手に持ったままでも、膝脇に置いたままでも構いません。立ち上がる時には必ず帯に戻すか、手にしっかり持つことを忘れないようにしましょう。
扇子の色は金と銀のどちらを見せるべき?
末広を開くと、金と銀のリバーシブルになっています。どちらを表に向ければ良いのか、迷うことがありますよね。
1. 黒留袖と色留袖での使い分け
黒留袖や色留袖といった第一礼装の場合、基本的には「金」の面を使います。特に結婚式の母親として参列する場合は、最も格式高い装いが求められます。
ただ、銀色が間違いというわけではありません。銀色はシックで上品な印象を与えますので、全体のコーディネートや、着物の柄行きに合わせて選んでも問題はありません。
2. 結婚式や披露宴のシーンによる金銀の切り替え
シーンによって使い分けるという考え方もあります。例えば、厳粛な挙式の最中は銀色、華やかな披露宴では金色という具合です。
- 挙式:銀または金
- 披露宴:金
しかし、実際に式の最中に扇子を裏返したりするのは大変です。最初から「おめでたい席だから金」と決めておいても、決してマナー違反にはなりませんので安心してください。
3. どちらの面を表にしても間違いではないケース
最近の末広には、両面とも金色のものや、蒔絵が施されたものなど、多様なデザインがあります。厳密なルールに縛られすぎる必要はありません。
大切なのは「お祝いの気持ちを表す」ことです。どちらの面を出しても、相手を不快にさせることはありません。自信を持って、その場の雰囲気に合った方を選んでください。
七五三の祝着での扇子の扱い方
お子様の七五三でも、扇子は欠かせないアイテムです。大人とは少し事情が異なる、子供ならではのポイントを見ていきましょう。
1. 7歳の女の子が帯に差す時の位置
7歳の女の子が「四つ身」の着物を着て帯を締める場合、大人と同じように扇子を差します。位置も大人と同じ「帯の左側」です。
ただ、子供の帯は大人よりも幅が狭く、帯揚げの結び方もふんわりしていることが多いです。落ちやすいので、帯締め(帯の真ん中の紐)に挟み込むようにして固定してあげると安心ですよ。
2. 3歳や5歳の子供が手に持つ時の注意点
3歳の被布(ひふ)姿や、5歳の袴(はかま)姿の場合、扇子は手に持つことが多いです。特に男の子の白い扇子は、ついチャンバラごっこの道具にしたくなりますよね。
- 撮影時のみ持たせる
- 口に入れないよう注意する
写真を撮る瞬間だけ持たせて、移動中は大人が預かっておくのが無難です。慣れない着物で転んだ時、扇子を持っていると手をつげずに怪我をするリスクもあります。
3. 慣れない子供が扇子を落とさないための工夫
子供にとって、ツルツルした扇子はとても滑りやすいものです。気づいたら無くなっていた!なんてことにならないよう、対策をしておきましょう。
あらかじめ滑り止めのシールを扇子の骨に貼っておくのも一つの手です。また、着付けの段階で、帯の隙間を少しきつめにしておき、しっかりと差し込んであげることも大切です。
母親が七五三で訪問着を着る場合の扇子
お母様が七五三で訪問着や付け下げを着る場合、「私も扇子を持った方がいいの?」と迷いますよね。
1. 訪問着や付け下げに扇子は必要か
訪問着や付け下げは「準礼装」にあたりますので、本来は扇子(末広)を持つのが正式なマナーです。帯の左側に差すことで、装いの格がグッと上がります。
しかし、最近の七五三はカジュアル化も進んでおり、必ずしも持たなければならないわけではありません。あくまで「あるとより丁寧」という認識で大丈夫です。
2. 準礼装として持つ場合の選び方とマナー
もし持つ場合は、黒留袖用の黒骨ではなく、訪問着に合うものを選びましょう。
- 骨の色:白や淡い色
- 地紙の色:金銀または淡い色
親骨が白やアイボリー、塗り骨などの明るい色で、地紙も優しい色合いのものがおすすめです。黒骨の末広は「黒留袖専用」と考えた方が無難です。
3. 撮影やご祈祷中だけバッグから出す選択肢
小さなお子様連れの七五三は、まさに戦場です。帯に扇子を差している余裕なんてない!というお母様も多いでしょう。
そんな時は、無理に帯に差さず、バッグに入れておきましょう。家族写真を撮る時や、ご祈祷を受ける時だけサッと取り出せば十分です。大切なのは、お母様が笑顔でいられることですから。
儀式の最中に扇子をあおいで涼んでもいい?
着物は暑いし、緊張して汗も出てきますよね。「せっかく扇子があるんだから、ちょっとあおぎたい…」と思う気持ち、よく分かります。
1. 礼装用の扇子を開いてはいけない理由
残念ながら、末広でパタパタとあおぐのはマナー違反とされています。末広はあくまで「儀式のための道具」であり、涼むための道具ではないからです。
また、末広を開くことは「福をまき散らす」とも言われ、縁起が悪いと捉える方もいます。基本的には、閉じたまま帯に差すか、手に持つだけにしておきましょう。
2. どうしても暑い時の控室での対処法
とはいえ、夏場の結婚式や暖房の効いた室内では、我慢できないこともありますよね。そんな時は、末広とは別に、普段使いの扇子をバッグに忍ばせておきましょう。
- 控室
- トイレ
- 廊下の隅
人目につかない場所で、普段用の扇子を使って涼むのは全く問題ありません。メインの会場では末広を使い、裏でこっそり涼むのが大人の知恵です。
3. 扇子を開いてよい唯一の例外的な場面
実は、末広を開いても良い例外的な場面が一つだけあります。それは「カメラマンにポーズを求められた時」です。
写真撮影の演出として、「扇子を開いて胸元に当ててください」と言われることがあります。この場合は、遠慮なく開いて華やかな写真を残しましょう。その場限りの特別な許可証のようなものですね。
礼装用にふさわしい扇子の選び方と準備
いざ使おうと思った時に、「これで合ってるのかな?」と不安にならないよう、扇子の種類や準備についても確認しておきましょう。
1. 黒骨と塗骨による格の違い
扇子の骨(持ち手)の色によって、合わせる着物が決まります。間違えるとチグハグな印象になってしまいます。
- 黒骨:黒留袖(最も格が高い)
- 白骨・塗骨:色留袖、訪問着
黒留袖には必ず「黒骨」の末広を合わせます。一方、色留袖や訪問着には、黒以外の骨のものが適しています。レンタルする場合はセットになっていることが多いですが、自分で用意する場合は確認が必要です。
2. 房(ふさ)が付いている扇子の扱い
末広には、持ち手の部分に房(飾り紐)がついているものと、ついていないものがあります。房がついている場合、取り外す必要はありません。
房は装飾の一部ですので、そのまま垂らして使います。ただし、房が絡まっていたり、ボサボサになっていると見栄えが悪いので、使う前に手櫛で整えておきましょう。
3. 長期間保管していた扇子の状態チェック
タンスの奥から久しぶりに末広を出してきた、という方も多いのではないでしょうか。使う前に必ず状態をチェックしてください。
湿気でカビが生えていたり、糊が劣化して開かなくなっていたりすることがあります。特に金銀の箔は、経年劣化で剥がれ落ちることがあるので、着物に付着しないよう、事前に広げて確認することをおすすめします。
まとめ
留袖や七五三での扇子(末広)の扱いについて、不安は解消されましたでしょうか。
扇子は「左側の帯の間」に、「少し斜め」に、「天を少し見せて」差す。この3つのポイントさえ押さえておけば、どこに出ても恥ずかしくありません。
末広は、あなたとあなたの大切な人の未来が「末広がりに幸せになりますように」という願いが込められたお守りのようなものです。正しいマナーを知ることは大切ですが、何よりもその「お祝いの心」を持って身につけることが、一番の着こなしと言えるでしょう。
どうぞ、自信を持って晴れの日をお迎えくださいね。
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